「会社員は毎月決まった給料が入るから安定している」
その感覚は分かる。わたしも会社員だった頃、長い有給休暇を取って遊んでいる間に固定給が入ることを、妙に豊かだと感じた。今のフードデリバリーでは、一日休めばその日の売上はない。
ただ、働き方を考えているうちに、少し変な疑問も出てきた。
今月稼いだ金は、今月中に使わないと腐るのだろうか。
もちろん腐らない。銀行口座へ残しておけば、来月も使える。
当たり前すぎて「そんなことは知っている」と言われそうである。わたしも知っていた。それなのに、収入が毎月同じでないと生活まで不安定になるかのように、どこかで考えていた。
働く日と、金を使う日は一致しなくていい
フードデリバリーには、注文が多い日も少ない日もある。雨の日にいつもより稼げたとして、その日のうちに余分な金を全部使う必要はない。残しておけば、注文の少ない日や、休んで本を書きたい日の生活費にできる。
貨幣は、働いた日と、その対価を使う日をずらせる。
毎日食べる分を毎日その場で稼がなければならないわけではない。この仕組みがあるから、収入に波があっても、その波をそのまま生活へ持ち込まずに済む。
もちろん、毎月20万円の給与を受け取る生活と、ある月に40万円稼いで翌月はほとんど稼がない生活が、そのまま同じという話ではない。翌月も稼げる保証はないし、先に使える金が手元になければ支払いには間に合わない。税金や保険料、仕事にかかる費用も残しておく必要がある。
だから、安定した給与には実際の価値がある。会社が収入の波を小さくして、毎月の生活を組みやすくしてくれる。
毎月給料が入り、ローンの審査も通る。それはたしかに安定の一つである。ただ、それだけで手元に金が残るわけではない。毎月の給与が安定していることと、収入が止まっても暮らせるだけの金を持っていることは、別の話だ。
一方、自分でも金を残しておけるなら、収入の波をある程度吸収できる。会社から毎月同じ額を受け取ることだけが、生活を安定させる方法ではない。
そこで、毎月いくら使うのかが効いてくる
ただし、金を持ち越せるといっても、毎月入ってきた分を全部使っていれば、翌月へ持ち越すものはない。
ここで初めて、生活費の話になる。
同じ額を貯めても、毎月の支出が大きければすぐなくなる。必要な金が小さければ、仕事が少ない時期にも長く持ちこたえられる。生活費は、貯金が何か月分の時間になるかを決めている。
さらに、毎月必要な金額が小さければ、そもそも働いて稼がなければならない最低ラインも下がる。
以前、会社員の安定と自分自身の安定を分けて考えた記事で、今の地方都市なら、独身のわたしは月12万円ほどで暮らす生活も考えられると書いた。主要駅へ出られる範囲に、家賃3万円前後の部屋もある。
その金額で実際に無理なく暮らせるかは、住居費以外も含めて確かめる必要がある。ただ、仮に成立するなら、月々必要な売上の見え方は大きく変わる。
雨の日に多く稼いだ分を残す。注文の少ない日は無理に走らず、ブログや本を進める。必要なら別の仕事もする。そんな配分を考えられるのは、毎月の支払いが手の届く範囲に収まっているからだ。
ただし、今のわたしには借金がある
と、ここまで書いておいて何だが、今のわたしには400万円以上の借金がある。独身で自由の身、と言いたいところだが、金銭面ではまるで自由ではない。
さっきの月12万円は、借金返済を含まない生活費の仮定である。今のわたしが毎月用意しなければならない金は、当然もっと多い。
雨の日に多く稼いだ分を、翌週の休みに全部回せるわけでもない。まず返すものがある。「金は腐らない」と言いながら、今すぐ気楽に働く日を選べる立場でもない。
ただ、それでこの考えが無意味になるわけでもない。借金を返す間も、毎月の生活費が大きければ返済へ回せる金は減る。返し終えた後も、生活費の水準によって、同じ貯金で休める期間は変わる。
こんな記事を書いている本人が、まだこの仕組みを気楽に使える段階ではない。だからこそ、まず現実の支払いを片づけながら、その先の生活をどう作るか考えている。
安くするために、生活を壊したくはない
ここで「とにかく生活費を削ればいい」と言い始めると、話がずれる。
安い部屋でも、そこにいるだけで気が滅入るなら困る。食費を削った結果、身体が重くなって働けなくなるなら、わたしの場合は逆効果だ。自転車の整備を惜しんで配達に支障が出ても意味がない。
わたしが知りたいのは、我慢すればいくらまで削れるかではない。
どのくらいの金額なら、毎日を気持ちよく過ごしながら暮らせるのか。
何に金を使うと本当に満足するのか。逆に、払っているわりに大して嬉しくないものは何か。住む場所や食事を変えたとき、身体や仕事や気分はどう変わるのか。
そこを一度、本気で試してみる価値はあると思う。数週間の節約チャレンジでは分からないこともある。季節が変わり、仕事が忙しい時期と暇な時期を通り、思わぬ出費も経験して、それでも続けたい生活かどうかを見る。
人によっては、最初の一年くらいをこの設計に使ってもいいかもしれない。その結果は、その後の毎月の支払いにずっと残る。
生活を先に決めないと、必要な収入も勝手に増える
多くの場合、生活はそこまで計画して始まるものではない。部屋を借り、物を買い、外食が増え、いつの間にか「毎月これだけ稼がないと生活できない」という金額が決まっている。
そこで収入が足りなければ、もっと働くか、借りるか、何かを諦める。もちろん、収入を増やすこと自体は悪くない。わたしも金は欲しい。
ただ、毎月必要な金額を一度も自分で決めていないのに、それを満たすためだけに働き方を決めるのは、少しもったいない。
わたしには独身で、住む場所や働き方を比較的動かしやすいという条件がある。家族を養っている人や、病気で支出を減らせない人に、同じ生活費を勧めるつもりはない。収入が低すぎれば、いくら支出を見直しても追いつかないこともある。
それでも、自分に選べる部分があるなら、「どう稼ぐか」の前に「自分はどう暮らしたいか。その暮らしに毎月いくら要るか」を考えていいはずだ。
わたしは稼ぐ方法を何度も考えてきたが、必要な金額の方を先に決めれば、選ぶ仕事も変わって見える。
金は残しておける。そして、残した金がどれだけ長く使えるかは、自分の生活にも左右される。
毎月同じ給料が欲しいと思う前に、まずは自分の生活が毎月いくらを必要としているのか。そこをもっと真剣に確かめてみたい。


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