~「強さ」と「正しさ」という嘘が、いかに人間の脳を破壊するか~
国民的ヒット曲を生み出し、紅白に出場し、誰もが羨む成功を手にしたアンジェラ・アキ。 だが、彼女の内側は地獄だった。
なぜか? 彼女が「無限の波紋」で言うところの「嘘の維持費」を極限まで支払い続けていたからだ。
嘘を吐くというのは実は物凄くコスパが悪い。特に長期的視点で観察すると、ジワジワと当人の精神を蝕み、パフォーマンスさえも下げていく。
なぜなら、人間は一貫性を重視する生き物だから。「〇〇と言った(宣言した)からにはその通りの言動を維持しなくてはいけない」。これは真面目な人間ほどそうなる。
また単純に嘘がばれないように常に気を遣う必要があるため、脳のリソースが「嘘を取り繕うこと」に持っていかれ、本来自分がやるべきことに完全フォーカスすることが難しくなる。
1. 「私は大丈夫」という莫大な負債
動画の中で彼女はこう語っている。
「昭和の人間だから、我慢が美徳、強さが勝つという考えで、『私は大丈夫』とずっと言ってきた」
これが諸悪の根源だ。 「手紙」を歌う彼女は、世間から「優しくて、強くて、悩める若者を導くお姉さん」という「聖人君子のキャラクター」を求められた。 そして彼女自身も、その期待に応えようと「大丈夫な自分」を演じ続けた。
前述した通り、「嘘(演技)」は脳のメモリを食う。 「国民的歌手アンジェラ・アキ」という巨大な虚像を維持するために、彼女の脳のリソースは枯渇し、精神は摩耗しきっていたのだ。
彼女が活動休止したのは、音楽の勉強のためではない。 「善人のフリ」という重労働に、脳が耐えきれずショートしただけだ。
2. 「聖なる下水道」こそが、リアルな「自分」だ
彼女はカウンセリングを通じて、自分の心の奥底にある「聖なる下水道」に降りていったという。 そこには、お化けではなく、ただの「嫉妬深い自分」「恨みを抱えた自分」「汚い自分」がいた。
ここが重要だ。 多くの人は、この「汚い自分」を消そうとする。克服しようとする。 だが、彼女は気づいた(あるいは気づかされた)。 「それが私だ」と。
「無限の波紋」の基本スタンスとしても提示しているが、 人間は究極的に利己的な獣であり、嫉妬も恨みも標準装備された機能だ。 それを「汚い」と否定し、綺麗なフリをするから苦しくなる。
彼女が救われたのは、光を見つけたからではない。 「私は下水道の住人(クズ)である」と認め、諦めたからだ。 「クズでもいいじゃん」と開き直った瞬間、維持費(コスト)がゼロになり、彼女は自由になったのだ。
3. 「復讐」から「ぬるぬる」へ
かつての彼女の原動力は「復讐(リベンジ)」だったという。 「ハーフは売れない」と言った奴らを、「絶対に見返してやる」「後悔させてやる」。 これは強力な燃料だが、非常に燃費が悪く、排気ガス(ストレス)で自分を蝕む。
対して、今の彼女が目指しているのは、落合陽一氏が言うところの「ぬるぬる」だ。 老子や荘子のような、上も下もない、善も悪もない、ただ流れに身を任せる境地。
これは、私が通ってきた「人生に飽きた後の世界」そのものだ。 彼女は「成功」という復讐をやり遂げ、それを味わい尽くし、その虚しさに「飽きた」のだ。
だからこそ、もう力む必要がない。 「生きるか死ぬか」の戦場から降りて、ただ「在る」だけの状態へシフトした。
結論:彼女は「成功者」だから偉いのではない
アンジェラ・アキの事例から学ぶべきは、「努力して成功すれば幸せになれる」ということではない。 むしろ逆だ。
「どれだけ成功しても、自分を偽って(良い人を演じて)いる限り、人生は地獄だ」 という事実だ。
彼女は10年かけて、ようやく「鎧」を脱ぐことができた。 だが、我々はプラチナディスクを取る必要はない。 今この瞬間から、「私は大丈夫」という嘘をやめ、「私は嫉妬深いクズです」と認めることができる。
そうすれば、10年も遠回りせずに、彼女が到達した「ぬるぬるした自由(下水道の安らぎ)」を手に入れられるはずだ。 彼女の苦悩は、我々にとっての「高価な反面教師」である。
私もかつて、彼女と同じ場所にいた。だから痛いほどわかる。


コメント